2歳は人生の冒険が始まるとき
生まれたとき以来、赤ちゃんは自分では何もできない存在として、周囲に依存し、お世話をされながら育っていきます。この時に、無条件で受け入れられ、一方的に愛されて、大事にされる経験が人生の基盤になります。
そして、2歳になると、赤ちゃんはいよいよ一人の「人」としての冒険の旅に乗り出すのです。2歳になった子どもは、自分で自分が行きたいところに行くことができます。歩けるし、走れます。自分が欲しい物を取りに行き、つかむことができます。自分の手を使って投げたり、破いたり、持ち上げたり、運んだりできます。大人の話もずいぶん理解できます。自分の意思も表明することができます。やることは、何もかも「生まれて初めて」のことばかり。そして、なんでもやってみたいという意欲の塊になっているのが2歳の子どもなのです。
かつては2歳の「人生の冒険の始まり」の時期、子どもたちは家庭で過ごしていました。家庭は地域とも密接なつながりを持ち、家にいるだけでもいろいろな人との出会いがあり、様々な社会の場面に出会うことができました。家庭にいる2歳も、そこで家族以外の人と接する経験を豊かに持つことができました。初めて会う人にはどうすればいいのか、挨拶やしきたり、礼儀作法のルールを見よう見まねで覚えていったのです。子ども同士、親の友だち、働いている人達、年配者、それぞれに違う接し方があることもわかるようになります。また、家族以外の人と出会い、家の外の世界に身を置く経験をすることで、社会にはいろいろな場所があること、家以外の場所では行動の仕方も変わることなどを知るようになります。扉の開け方、高い場所への行き方、道具の使い方、体を動かして楽しむこと。これまでやったことのない経験を、心も体もいっぱい使って、生きる力をぐんぐん伸ばしていくのです。そんな経験をふんだんにして、子どもたちは幼稚園に入ってきました。そして、人生で初めての学校である幼稚園で、同年齢集団での生活から次の学びに進んでいったのです。
ところが時代は変わり、社会のあり方がすっかり変わってしまいました。現代の多くの家庭は、かつてのような地域とのつながりをほとんど持っていません。家族のあり方も変わってしまい、家にいるだけでは親以外の人と接することが難しくなってしまったのです。家族以外の様々な人たちと密接に出会う経験ができなくなると、必然的に子どもが経験できることも非常に限られてしまうようになりました。その結果、最近幼稚園に入ってくる子どもたちの様子が以前とずいぶん違ってきたことを痛感させられています。いつまでもお世話されることに慣れてしまって生活の自立が進んでいなかったり、表情が乏しかったり、体の動きがぎごちなかったりするのです。「2歳児の母親が、これほどまで孤立した時代はなかった」と言われています。ある都市では「日ごろ立ち話をする人がいない」と答えた人の割合が16パーセントに上りました。また、72パーセントの母親が、自分の育った市区町村以外で子育てをしています。子どもが育つ地域との接点が持ちにくくなっているのです。
社会もこのことに気づきはじめ、さまざまな子育て支援の取り組みが始まっています。そのなかでも、幼稚園だからこそできることがあるのではないかとわたしたちは考えています。幼稚園に入ってきた時に、生活経験の乏しさが感じられた子どもたちも、幼稚園に通うようになるとあっという間に変わっていきます。人生の冒険への意欲が、幼稚園という場所で花開いていく姿をわたしたちはたくさん見る経験をしているのです。特に八戸小中野幼稚園は、少人数のたて割り保育を中心にしています。ここで、子どもたちは異なる年齢の集団を経験します。ちょっと年上の子どもたちの活躍する姿にあこがれ、自分より小さい子どもたちのお世話をすることで自分の成長を実感します。また、担任以外の教師や職員とも密接なかかわりをもつので、いろいろな大人たちとの出会いをしていくようになります。また、幼稚園で行う様々な活動は、子どもたちの意欲を育てる良い刺激になります。そして、子どもたちは小中野の地域をお散歩で歩き、地域の行事に参加したり、地域にある学校や施設に出かけて行ったりして、社会を知っていくのです。
社会や家庭の環境がこれほど変わってしまった時代、幼稚園に3歳から入園すれば大丈夫とは言えなくなってきていると感じます。正式な入園となる3歳になる前から、人生の冒険が始まる2歳から、子どももその保護者も幼稚園と関わり、つながりを持ちながら一緒に成長していけるようになりたいと思うのです。幼い子どもたちが、人生の始まりの時期を家庭で愛されてすごすことは大切です。けれども、人生の冒険の始まりには、人やさまざまな経験との出会いも必要です。最初は週に何日かという形ではじめ、無理なく幼稚園の保育時間内(朝9時~午後2時)を幼稚園で過ごせるようになるだけで、2歳の育ちは大きく豊かに変わるでしょう。また、保護者も同じ幼児と生活している人達と出会うことで励まされ、保育者に何でも相談できる安心感を得ることができるでしょう。いずれ幼稚園教育をと考えておられるご家庭に、今の時代だからこそ大切な2歳児保育について考えていただければ幸いです。